集中と分散の適正なバランス フューチャー・オブ・ワーク/iPhoneショック

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)
作者:Thomas W. Malone, 高橋則明翻訳
出版社:ランダムハウス講談社
発売日:2004/09
iPhoneショック ケータイビジネスまで変える驚異のアップル流ものづくり
作者:林信行
出版社:日経BP
発売日:2007/12/13

フューチャー・オブ・ワークは主に企業にスポットをあてて、これまでの組織形態の在り方と21世紀の新しい組織の戦略をITを軸にして紹介している本です。
孤立→集中→分散というトレンドの変遷が様々な組織にはあるといいます。それは国でも企業でも同じです。企業で言えば、個人あるいは部署といった小規模の群れが存在していて、それらは相互不干渉であり個々に孤立しています。これは距離的な問題や物理的ではない何らかの障害によって妨げられている、つまり相互に干渉するために必要な情報交換のコストが高く困難だからだということです。
技術が進歩し、情報コストも若干下がり始めると、組織は次第に相互に関係を持つようになり、やがて一か所に集中しはじめます。いわゆる一極集中型の組織形態は20世紀の産業の発展を支え、21世紀の今でも多くの企業に見られる傾向です。トップダウンの情報伝達を徹底することで、企業としての一貫性が保たれ、全体として高い生産性を生みだします。
ITがより進化し、例えば社内SNSや電子メールによって情報コストが極限まで下がると、今度は組織は分散化の傾向をみせはじめます。情報伝達にコストがかからなくなったことで、組織を一極集中にしておく必要がなくなり、アウトソーシングなどを上手く利用して作業を分散させることも可能になりました。また中央集権的だった組織から、権力を分散させた組織へと姿を変える、あるいはそういった姿で始まった企業が出始めました。それらの企業は従来のツリー型情報伝達に加えてボトムアップ型、果ては横にも、必要なら外にも情報伝達の根を張ることで縦横無尽に情報交換が可能になっています。組織における情報の流れは著しく活性化し、生産性だけではなく創造性も高まるのが分散化の良い所です。
この本が面白いのは、何んでもいいからとにかく分散化しろとは言ってないところですね。今まで通りトップが権力をある程度持って組織を統制した方がいい場合もあるといいます。権力を集中して持つ階層をある程度分散させる、例えばそれぞれのプロジェクトマネージャーにかなりの決定権を与えるなど、集中と分散を適正なバランスに保つことが結局は企業の利益になるということです。
iPhoneショック」を読んでいて興味深かったのは、iPhoneを発売して世界を騒がせているappleが、集中と分散の適正な分配を実現している企業の一つではないかということです。appleとえばスティーブジョブズのワンマン企業というイメージが強かったです。実際ジョブズが彼のカリスマ性でもってappleを一つの思想に統一していることは間違いないでしょう。
しかしながら林信行氏が語るには、ジョブズはパーツの一つを作るエンジニア一人とも真剣にぶつかりあい、ジョブズが納得すれば意見を受け入れることもあるそうです。ジョブズのhomeボタンすら要らないという考えにエンジニアの一人が意見したという話が印象的でした。結果はあなたの手にあるiPhoneなりtouchなりを見ればわかるでしょう。
統一すべきところは集中して統一し、分散すべきところは適切に分配させる。このバランスをジョブズ復帰後のappleは貫いてきたから、今の隆盛があるのでしょう。
iPhoneショックで比較されている日本の携帯メーカーはその真逆なのかもしれません。製品の肝ともいえる世界観やグランドデザインはキャリアによって押しつけられたものです。一方ハード面では各部品、ソフト面ではアプリケーション間の連携は、担当部署や企業が惰性的に分散されているせいか一貫性のないものになってしまっています。近頃の日本メーカーの携帯を見ると、どれも外見は似たり寄ったりで、一方ソフト面はチグハグに感じるのは決して私がオッサンに近づいていることだけが理由ではないでしょう。
appleという企業から日本の組織が学ぶことは多いように思いました。

追記
日本の携帯メーカーに足りないこと、ということで思い出したのはジョブズの伝説のスピーチです。キャリアや企業の因習などメーカーの生産活動を限定する要素は多いです。本当に大切なのは自分たちが作りたいのは何かということ。自社のスピリットの囁きに真摯に耳を傾けること。他のことは気にしてはならないということ。ジョブズが言うようにこれは企業だけではなく、個人の人生の生き方の問題でもあるように思います。お気に入りのスピーチなので有名すぎますが、一応youtubeからリンクを張っておきます。