ティンカー

ティンカー (ハヤカワ文庫SF)
著者:ウェン スペンサー
出版社:早川書房
発売日:2006/07
★★★★☆

21世紀末、中国が開発した異次元間転移装置ハイパーフェーズにより、異世界への道が開かれた。だがその装置は未完成で、なぜかピッツバーグだけが魔法が支配するエルフホームに転移してしまった。ティンカーは、そのピッツバーグでスクラップ業を営む、18歳の天才少女。ある日、魔法の狛犬に襲われた一人のエルフを助けたことから、地球・エルフホーム・オニヒダの三世界にまたがる奇想天外な大事件に巻きこまれることに。サファイア賞受賞作。

ライトノベルのような表紙に惹かれたわけではけしてないのですが、内容もまぁまぁライトノベルのような展開。ジャンルとしてはファンタジーとSFをかけてハーレクインロマンスを足したような感じですかね?
ページ数が600越えと文庫にしては分厚い方なので結構読み応えはありました。序盤が思いのほかペースが上がらず「まだこんなに残ってるよ・・・」って感じで辟易していたんですけど、多分世界観や登場人物の設定を把握してなかったからですね。SF設定はまだいいんですが、ファンタジー要素が結構多めで、特にそれらしいティンカーの世界に特異な専門用語が多く、いちいち頭の中で整理しながらだったので、ページをめくる手がよく止まってました^^;特にエルフ語がどうにも馴染まなくて一苦労・・・

ドーミが婦人・レディのような意味で「ティンカードーミ」のように使って誰々の奥さんみたいな感じ?あとはエルフ社会にも階級があってドマーナが支配階級でセカーシャが下位の階級。本作の中ではドマーナが一方的にセカーシャを支配していると嘆いている人もいましたが、セカーシャ階級の中には喜んで戦いに明け暮れたり、エルフホームを繁栄させるエンジンの一部として様々な仕事を任されることに誇りを持っている者をいるようです。他にも他にも慣れない単語がたくさん出てくるのですが、まぁ読んでいけばそのうち慣れます。

ゲートを作るハイパーフェーズを完成させられる唯一の人物ティンカーを巡って三つの勢力がぶつかる。彼女を利用しようとする鬼の一族、彼女を守ろうとするエルフたち、そしてどっちつかず(実は鬼より?)な地球。三つ巴のなか物語は終盤へと加速していきます。面白いのはティンカーがけして狙われ捕われた悲劇の無力なヒロインというわけではない点です。もちろんお年頃の女の子に暴力に打ち勝つ力はありませんが、ティンカーには誰にも負けない勇気と知性があります。頭脳をフルスロットルで回転させ信頼できるパートナーのポニーとの脱出劇はかなりの見どころです。世界観も把握したこともあってか、終盤はかなりのペースで一気に読み終えてしまいました。ファンタジーとSF(とロマンス)が好きな人は読んだ方がいいかも。続編が既に出版されているそうなのですが邦訳はまだらしい・・・。

気になったのはネイサンの行方・・・確かにティンカーにレイプまがいのことをしてしまった性欲を持て余すネイサン(本当に警官か^^;)ですが、反省のチャンスすらなく、エンドロールよろしくティンカーが最後にみんなのことを思い浮かべるところでは「ネイサン」の名前すらでてきませんでした。ある意味一番人間くさいのに・・かわいそうなネイサン。

「わかってる。悪かった」
「もう帰ってちょうだい」
「ティンカー・・・・・ティンク・・・・たのむから・・・」
「帰ってもらおうかな」
オイルカンが静かにいい、ネイサンは無言のまま部屋を出ていった。

これを最後にネイサンの姿を見たものは誰一人いない・・・