ガタカ

ガタカ [DVD]
監督:アンドリュー・ニコル
出演:イーサン・ホーク ユマ・サーマン ジュード・ロウ
公開:1998
★★★★★

DNA繰作による優秀な遺伝子を持った“適正者”によって、自然な出産で生まれた人間が“不適正者”として支配される近未来。不適正者として生まれたビンセントは宇宙飛行士を夢見ていたが、それは不適正者ではかなわぬ夢だった。しかし、彼は自分の運命を変えるためDNAブローカ一の紹介でジェロームという青年の適正者IDを買い取る。ジェロームになりすまして宇宙局ガタカの局員となったビンセントはついにタイタン探査船の航海士に選ばれる。だが出発間近に上司が何者かに殺された事件でビンセントの髪の毛が発見された事から、正体発覚の窮地に立たされる。ビンセントの素性に疑いを抱く女性局員アイリーン。更にエリート捜査官となった弟のアントンの介入で、彼はますます窮地に追い込まれる。

遺伝子工学が発展し、その優劣が人間の運命まで左右するようになった未来を舞台に、まだ見ぬ宇宙を目指して適正という壁に悲しいまでに立ち向かうビンセント。ビンセントと同じく、両親の愛のもと生まれ、神の子としてハンディを背負うヒロイン。遺伝子的に優れた素質を持ちながら、不適正者の兄に劣等感を抱く弟。約束されたエリートしての道が不運な事故で失われしまったジュード・ロウ演じる友人。遺伝子の素質という絶対的メルクマール、浮き彫りにされる人間の可能性、そして描かれるヒューマンドラマに思わず落涙してしまいました。
この作品では、良くも悪くも「可能性」というものについて考えさせられます。主人公ビンセントと弟の海上でのチキンレースが印象的で、あのシーンがこの作品のテーマを明示しているように考えられます。もはや沖も見えないほど遠くまで来てしまった時、弟はもう無理だ、これ以上は危ないと引き返そうとします。持てる力を出し切って、戻る事なんて考えずにどこまでもいこうとするビンセントとは対照的です。弟にとって可能性とは、これ以上は無理だという現実的な限界を意味しています。けれども、ビンセントにとって可能性とは夢です。遺伝子適正という運命を覆して、まだ見ぬ陸、まだ見ぬ宇宙に見ている夢そのものです。可能性に縛られるビンセントが、可能性に夢を見て奮闘する姿が、マイケル・ナイマンの壮大かつ繊細な音楽に切なく彩られいて、私の中で忘れることできない名作になりました。